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マガツノート

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NOVEL

SHORT STORY

<2周年スペシャルSS>今から2年前……:六道閹編

Character
幸村 佐助 才蔵

 ――【六道閹】には、いくつか恒例行事がある。

「は? 散髪? ユキが、オレの頭を?」

「ああ。君が我々の仲間になってもう1年だが、1度も切っていないだろう? そろそろどうかと思ってね」

   ◇

 他人に髪を切られるのは、好きじゃない。
 だって、刃物持ったヤツに自分の頭を預けるんだぞ? そんなのいつ殺されたっておかしくないじゃん。それにじっとしてるのも得意じゃないし。

 ……って、言ったのに、

「ふむ、闘技場にいた頃より、毛のツヤが良くなっているね。ここの生活にも、もうすっかり慣れてくれたようで何よりだ」
「え? ああ、まーね」

 気付いたら、オレはアジト内にある美容室のイスの上だった。

「前髪はこのくらいでいいのかな?」
「う、うん……」

 ユキのハサミが目の前を通って、チョキチョキと前髪を落としていく。さすがユキだけあって、刃物の扱いには迷いがない。
 でも、こんな目の前に”他人の武器”があるっていうのは、どうしても気持ちが良くない。

(うう……、いくらユキでも落ち着かない……)

「おやおや、そんなにカタくなって……♡ こんなに大人しい佐助、ハジめてですね。まるで借りてきたネコちゃんのようです。フフフ」

 そんなオレに気付いたのか、隣で順番待ちをしていたサイゾーが話しかけてきた。

「どうかリラックスしてください。ゆきは定期的にみんなの髪を切ってくれていますから、腕前はプロ級ですよ」
「みんなのを? 何でユキみたいな強いヤツがそんなこと……」
「”私以外では切れない”からだ。以前は年長の者達が持ち回りでやってくれていたんだが……、ここにはナイーブな子も多いだろう? 中には暴れ出す子もいてね」
「でも、どんな子も『ゆきになら安心して任せられるから』……、と指名制になって。それで気付いたら、ゆき1人でやることになっていたんですよね♪」
「ああ。おかげでずいぶん上達してしまったよ」

 そう言ってユキは微笑み、銃を扱うようにハサミを回してみせる。

「そういうわけで、希望の髪型があれば遠慮なく言って欲しい。もしくは、合わせたい服があるならそれを教えてくれれば考慮しよう」
「うーん、何でもいい。ユキに任せる」
「それは光栄だが……、いいのかな?」
「うん。オレ、髪型とか服とか、別に興味ないし」

 だから、地下闘技場でも髪は自分で適当に切ってたし、服は死んだ闘士のやつをかっぱらってた。まぁ、チャンピオンになってからは『汚いと見栄えが悪い』って偉いヤツから服を渡されてそれを着てたけど……、見た目なんて気にしたこともない。
 そもそも、見た目にこだわったって何もいいことないじゃん。そんなこと考えるヒマがあったら、新しい技を考えたり、武器の手入れをしている方が何倍も楽しいって。

「それは、少しもったいないな」

 ……と思っていたのに、ユキから返って来たのは意外な一言だった。

「もったいない?」
「ああ。殺しや戦いも、一種の対話――、コミュニケーションだ。だから、力や意志の強弱と同じくらい、見た目というものは重要な要素になる」
「こみゅにけー……??? どーいうこと?」
「では佐助、君は戦う相手に、自分をどんな存在だと思って欲しい? 例えば私は、相手にとって”目前へ迫る『死』そのもの”でありたいと思ったから、それを想起させる黒を好んでいる」
「えー……。相手が何思うかなんて関係なくない?」
「そんなことはないよ、佐助。君は殺すことではなく、戦いに快楽を見出しているのだろう? ならば……、君が”より気持ちの良い戦いができそうな相手”は、どんな見た目をしているのかな?」
「あ……!」

 その説明で、バカなオレもようやくユキの言いたいことが分かった。

「――強そうなカッコのヤツ!」
「フフ、では君もそういった姿になるべきだ。その方が戦いも……、より盛り上がる」

 『見た目から強そうな方が、気分がアガる』
 それが相手も同じだって、今までどうして気付かなかったんだろ?
 今まで見えてなかった物が見えた感じ。……アレ? こういうの何て言うんだっけ。”世界が広がる”?

(たしかに、もったいないじゃん……!)

「――よし、終わりだ。頭を洗ってくるといい」

 なんて、オレが新しい発見に気を取られてる間に、ユキは散髪を終えていた。
 鏡を見ると、前後左右きれいに整えられてたけど……、さっきのユキの話を聞いた後だと、何だか物足りなく感じてしまって。

「もう、佐助? 何か注文があるなら早く。後ろがつかえてるんですよ」
「あ、いや……。注文って言っても、どんなふうにしたらいいか、オレ分かんないし」
「改めて、ゆっくり考えるといい。君の強さを表すのに最適なのはどんな髪型か、どんな服装か……、をね。それもまたファッションの醍醐味だよ」
「オレの、強さを……」

 自分の強さを、髪や服で表す……。
 まだちょっとピンとこないところもあるけど、武器を選ぶ時のワクワクに似てる気がする。ちょっと前まではまったく興味なかったのに、今はそう思えるようになった。

(1年前、闘技場を出て初めて地上を見たあの瞬間……、あれに負けないくらいの発見かも! やっぱりユキはすごいや……! ついて来て本当に良かった!)

「あ、ちなみに、私は――狭くてキツいのがイヤなので、こういう恰好をしています♪」
「は? いや、サイゾーのは聞いてないし。ってか、それでもパンツくらい履けよな……」
「お断りです♡」

「佐助。君の目指すべき姿、君の”ありのまま”がどんなものか……、それを見つけるためなら私達は協力を惜しまないよ。無論、それを見つけたくないというなら、それもいいだろう。……全ては、君の望むままだ。なぜならそれこそが――」

「それが【六道閹】だ、でしょ? ユキ」

「ああん……、もう佐助。ゆきの決めセリフを盗っちゃダメじゃないですか」
「フフフ、構わないさ。むしろ喜ばしいことだ。それが分かっているということは……、彼も本当の意味で、私達の家族になったという証なのだから」

「改めて……、ようこそ佐助。私達の――、”我が家”へ」