SHORT STORY
<エイプリルフール スペシャルSS>噓つき家康の憂鬱
Character
――【エイプリルフール】。
それは年に1度の嘘をついても許される日。
そういうわけで、この俺、家康は嘘をつく相手を探して本拠地の居住区をうろうろしていた。まあ、直政と仕事から逃げて来ただけだけど……。
「小十郎、せっかく遠征のついでに立ち寄ったんだ。ここでなにか食べて行こう」
「いいですね。【ホリーホック】の領地は食材の質も良いですし」
聞き覚えのある声がして振り向くと、そこには珍しいヤツらの姿があった。
「ターゲット発見~♪」
これまでのアイツらへの鬱憤と仕事のストレスを一気に発散してやろうと、仲良さげに話す2人に話しかけた。
「やっほー、政宗君と小十郎じゃない。こんなところでなにしてるのさ?」
「……家康か。小十郎のメンテナンスに寄ったんだ。特殊な部品が必要だったからな」
「そうなんだ。ところでさ、最近うちの領地で流行ってるスーパーフードがあるんだけど知ってる?」
「いや、知らないが……そんなものがあるのか?」
「うん、“ミミズ”なんだけど、美容にも健康にもいいって評判でさ~。畑にいるから自由に食べていいよ」
(まあ、嘘だけど)
箱入り坊っちゃんだった政宗はエイプリルフールなんて風習知らないだろうし、ちょっとからかってやるくらいいいよね。小十郎は嘘に気づいているのか、怪訝な顔をしてるけど。
「ミミズだと? ……悪いが、俺は遠慮しておく。いくら健康に良いとしても、アレを食べるのはな……」
(はぁ? つまんないヤツ。でもまあ、嘘は信じたみたいだし、次は……)
「あっそ。あ、そういえばさ、忠勝が言ってたんだけど、今日のメンテナンスで小十郎の腕をミサイルにしたらしいじゃん」
「そうなのか? 小十郎」
「いえ、忠勝様はそのようなことはひと言も――」
「しかも、相当威力がデカいヤツね。羨ましいなぁ。ねぇ、小十郎?」
わざとらしく小十郎の言葉を遮って牽制すると、アイツは諦めたように息をついた。
「そういえば、そうだったような気がしますね……」
(小十郎は俺たちに恩があるんだし、少しくらい付き合ってもらわないとね)
「なら、次の戦の時に見せてくれ。期待してるぞ」
「……はい、楽しみにお待ちください」
(……違う! 思ったのと違う!!)
政宗が少しも驚いた素振りを見せないことに不満を感じた俺は、政宗をビビらせられるような嘘は無いかと頭を働かせる。
(じゃあ、これならどうかな……!)
「ああ、それと最後に警告。この前、うちで研究してる超強化型ミュータントが逃げ出したんだけど、まだどこかにうろついてるらしいから気をつけてね」
「家康、お前そんな実験を……」
「人間相手にやってる【ARK】よりはマシでしょ。それで、そのミュータント、ほんとに狂暴でさ……、体長が2メートル近くある上に、30センチの牙を持ってて、肉とわかれば飛びついてくるんだ」
「そんな生き物がいるのか……?」
(しめしめ。政宗のヤツ、驚いてる。この調子でもっと脅かしてやろっと)
「しかもそいつ、牙に毒があって触れたら最後、一瞬で全身に回って1分以内に死に至るんだ」
「相当危険じゃないか……!」
(なーんて。そんな動物実験、最初からやってないんだけどね)
青ざめた顔の政宗を見て、内心笑っていると……
――ガサゴソッ。
と、近くの草むらが音を立てて揺れた。
瞬時に反応した政宗が刀に手をかけ、臨戦態勢となる。
「もしかして、例のミュータントが来たのか?」
「…………アハ、アハハハハ!!」
あるはずもないことを真剣な表情で言う政宗が可笑しくて、思わず笑い声がこぼれる。
「笑っている場合か? 襲い掛かってくるかもしれないぞ!」
「ないない。だって――」
ネタばらしをしようとしたその時だった。
――ガサガサ。バッ!!
再び音がして、巨大な“何か”が飛びだしてきた。
「「うわぁぁぁぁぁぁっ」」
不覚にも、政宗と一緒に声を出してしまった俺……。
そんな俺達をよそに、小十郎が表情ひとつ変えずに、その毛むくじゃらの獣に歩み寄る。
「「やめろ……!」」
俺達の制止を無視して、小十郎がそれを抱きかかえた。
「にゃ~ん」
(………………へ?)
“それ”の正体は野良猫だった。伸びた毛が、体を大きく見せていたらしい。
「なんだ、猫か。家康が変なことを言うから驚いたぞ。……ん? なにかくわえているな?」
政宗が猫に近づき、受け取ったの――“ミミズ”だった。
「確か、美容と健康にいいんだったな。俺は要らないから、お前にやる」
「はぁ……?」
(そんな純粋な瞳で言われても、ミミズなんか触りたくないんだけど!?)
……しかし、嘘をついた手前、受け取らないわけにもいかず。
俺は渋々、それを最低限の指だけでつまんだ。
「ううう……。政宗、次会ったらこの借りは必ず返すから……!!」
「いや、礼はいらんぞ」
「~~~~っ!!」
ずれたことを言う政宗としたり顔の小十郎を睨みつけながら俺は……、
(来年は絶対、俺の嘘で一泡吹かせてやる……!)
そう誓いながら、仕事へと戻るのだった。