pagetop anchor

マガツノート

OPEN CLOSE

NOVEL

SHORT STORY

<2周年スペシャルSS>今から2年前……:MAD FANG編

Character
秀吉 官兵衛 清正 織田信長

「っしゃ、飯の時間だ。今日のご馳走はなにかな~……って、なんだこりゃ!?」

 このオレ、【第六天魔王軍】幹部の秀吉は、目の前に並んだ質素な食事に思わず声を上げた。

「なんでこのオレの飯が、米と豆だけなんだよ!?」

 側近であるカンベーとキヨに問いかけると、2人は呆れたように顔を見合わせる。

「何でも何も……、忘れたのか? 全部ボスのせいだろうが」
「ああ、アニキのせいでオレらまでお館様の罰を受けるハメになったんだぜ」

「罰……? …………あ」

   ◇

『サル。此度の戦……、しくじったそうだな?』
『い、いやその、お館様……。オレとしては結構良い感じにやれてたんスけど、思ったよりあっちがやり手だったつーか何つーかでして、それでええと――』
『たわけが……!』
『ヒッ!?』
『貴様らが贅沢三昧にうつつを抜かし、戦を疎かにしていたこと……、知らぬ我とは思うまい? 我が【第六天魔王軍】幹部として強欲は許してきたが、それは務めを完璧にこなしてこそ。……罰として、貴様等には一か月の贅沢禁止を命じる』
『はぁあああああああ……!?』

   ◇

「チッ、そういや今日から贅沢禁止なんだったな……」

「ボスが兵達にド派手な装飾の鎧を着させたのが悪いんだ。無駄に目立つし、重さで機動力も落ちてオレの作戦に支障が出ると言ったのに無視しやがって……!」
「あとアニキ、毎晩毎晩、高い酒飲み過ぎな。二日酔いで仕事になってねぇじゃん」

「大陣営の幹部様ともなると、いろいろとストレスも溜まんだよ! てか、なんでオレだけが悪いみたいに言ってんだ? お前らだって同罪だろうが!?」

 責任を全部オレに擦り付けようとする2人に腹が立ち、机を叩いて立ち上がると、それに反応してカンベーもキヨを道連れにする形で立ち上がった。

「はぁ? オレが同罪だと??」
「なんでオレまで……。別に贅沢してないんだけど」

「カンベーは商人共へのワイロや仲間内での賭け麻雀で散財、キヨは自分の部屋を魔改造して朝までゲーム……、どっちも軍費からくすねてるの知ってんだからな! これが贅沢じゃなきゃなんだってんだ! 勝家のジジイの軍なら打ち首モンだぜ!?」

「アニキが使った額に比べりゃ可愛いもんだろ?」
「それに、オレは収支で言えばプラスになってる!」

「額の問題じゃねぇよ! 贅沢して仕事がおろそかになってたのが問題なんだろうが!」
「このクソザルが……っ! 今更おりこうなこと言いやがって、そもそも戦に負けたのはテメェのせいだって分かってんのか!?」
「カンベーの言う通りだぜ。アニキがオンナにいいとこ見せようとして失敗するから――」
「うるせぇ! キヨが寝不足じゃなきゃ上手くいってただろ!」
「はぁ? オレのせいってか……!?」

「「「ケンカ売ってんのか!?」」」

「――ほう? ずいぶん、元気が有り余っているようだな。サル」

「「「ゲッ、お館様……!?!?」」」

 ケンカに夢中で気付かなかったが、いつの間にかお館様が部屋に入ってきていた。

「贅沢禁止で落ち込んでいるのではないかと思ったが……、フフ。その様子では我の杞憂だったようだな?」

 最悪なことに、話をバッチリ聞かれていたらしい。顔は笑っているが、猛烈な怒気が全身から発せられている。オレらはギリ大丈夫だが、一般人共なら卒倒してるレベルだ。

「あっ、い、いや……これはッスねお館様――」
「分かっていると思うが、戦でのあのような失態、本来なら首を飛ばしているところだ。我が慈悲の心、どうか無駄にせぬことよ」

 魔王・信長に鋭い視線を向けられたオレ達は、反射的に頭を下げていた。

「「「すみませんでした……!」」」

   ◇

 お館様が去った後、張り詰めていた緊張の糸が切れ、3人同時に息を吐き出した。

「はぁ……、節約すっか……」
「オレも削れる予算がないか、後で見直しておく……」
「少しやり過ぎてたかもな、オレら……」

「ま、しょうがねぇ。オレもカンベーもキヨも、贅沢には慣れてねぇんだからよ」

 言いながら、ふと思い返す。
 ……あの、オレ達が育った地下の配管施設を。

 陽の当たらない、暗くて汚い世界……。
 地上の誰かの食べ残しを漁って、誰かの使い古しの服を着て、その辺に転がる害虫の死体を踏んづけて歩く生活。
 最低も最低、これ以上下はねぇってドン底だった。

 ……だけどある日、偶然目にしたんだ。
 どっかから差し込んだ、ドン底を照らす眩い光――太陽を。

 その光を目にした時から、オレは夢を見始めた。外の世界を。
 太陽みたいに光輝く存在に……、ナンバーワンになるってことを。

 そして、その一心だけでオレはここまで這い上がって来た。

(……いや、そうか。オレとしたことが勘違いしてたな)

 あることに気付いて、オレは勢いよく立ち上がった。

「カンベー、キヨ。金だ! 金を稼ぐぞ!」

「なんだ、ボス。いきなり」
「まさか、使った金返そうっての? アニキ」

「ちげぇよ! こんなとこで止まってる暇はねぇって思い出しただけだ。オレが誰だか忘れたか? オレはいずれナンバーワンになる男、秀吉サマだ! 節約なんざみみっちぃことやってる場合じゃねぇ、逆に金を稼ぐんだよ! 稼いで稼いで、今の贅沢を”当たり前のこと”にしちまえばいいんだ。そうすりゃ、戦でヘマすることもなくなるだろ? 真のトップってのはそういうもんのはずだ!」

「本当に何なんだこいつは。急に……」
「けど、一理あるかもな。何よりそっちの方がアニキらしいぜ」
「はぁ……、それもそうか。たしかに、今のままじゃこれ以上上へはいけないしな……、よし。”わかりました”、ボス。オレも稼ぐ方法を考え”ます”」

「おっ、カンベーどういう風の吹き回しだ? アニキに敬語なんか使って」
「トップがナンバー2とタメ口じゃ、カッコつかないだろうが。……そんなことより、ボス。上に行くって言っても光秀や勝家がいるんです、彼らを超えるのは簡単じゃないですよ」

「ハハッ! ま、そこらへんはオレに任せとけって!」

 ただ、トップになるために超えなきゃならねぇ壁は、光秀や勝家だけじゃねぇ。

 オレがナンバーワンになるためには、
 誰よりも光輝く太陽になるためには、

 今の解放区のトップに立つ”アイツ”を、倒す必要がある。

 ……この日からオレは、心の中で密かにそれを見据え始めた。
 全てはいつかオレがトップになるために。

 それと、

(地上に出た時、約束したからな。お前らの行く先はオレが照らすって)

 兄弟との約束を、果たすために……。