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マガツノート

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NOVEL

SHORT STORY

<戦シーズン弐nd 荒魂大祭> #3 屠所之羊

Character
小十郎 光秀 左馬之助 直政 幸村

 【荒魂大祭(あらみたまフェス)】に向けた中間発表を終え、今回のライブが【魂響】と楽曲を融合させて音楽を奏でるものだと気付いたオレたち【チーム哀】は、作戦会議もかねて親睦会をすることになった。

「――というわけで、【ORIBE】から酒とご馳走が届いたみたいだし、【屠所之羊(としょのひつじ)】の親睦会を始めよっか。……って言っても、光秀様はいないけど」

 ステージで最高のパフォーマンスを発揮する為にも、メンバーの仲を深めておくのは悪いことではない。たとえバンドが終わったら、命を狙い合う敵同士であってもね。

「光秀がこういうの参加するヤツじゃねぇって、お前が1番わかってんだろ。今後のことも話さなきゃなんねぇんだし、さっさと始めんぞ! ――ンじゃ、乾杯!」
「「乾杯!!」」

   ◇

「それにしても、私達の楽曲のテーマ……【ここは自分の居場所じゃない】。受け止める人によって解釈が無限に広がりそうな、興味深いお題目ですね」

「お前の居場所といやぁ、政宗の隣だもんな、小十郎」
「ええ、マスターの元が私の居場所だと思っております。マスター、元気に過ごされているでしょうか。人見知りの心を抑えて、周りの方々と交流できていますでしょうか……」
「あの政宗のことだから、同じチームのメンバーによってはバチバチやってそうだよね~」
「好き嫌いをせずに、きちんとご飯を食べているのでしょうか。衣類はたたんで、歯磨きもきちんと……」
「いや流石にそれは心配し過ぎだろ。親じゃねぇンだからよ」

「そういう直政様は、気掛かりではないのですか? 家康様のこと」
「アン? そりゃお前……、そうだな。あいつ細かいこだわり多くてうるさくてよ……。石鹸が肌に合わないー!とか、タオルの材質がー!とか。ちょっとでも気に入らないとすぐ文句言い出すから、何か変な問題起こしてないかって心配はあるな」
「っ! 分かります。政宗様も枕の高さや方さが変わると眠れなかったりと、色々繊細な方なので心配で……!」
「はー、あのお坊ちゃんらしいぜ。ったく、お互い大変だな……。あ、それで思い出したんだが、家康のヤツは──」

 この過保護っぷり、利三と同じレベルかもしれないなぁ。ニコニコしながら2人のやり取りを楽しんでいると……。

「確かに、心配ではあるね。――佐助と才蔵は元気にしているだろうか。2人とも、楽しめているといいんだが……」

 幸村が、愛おしそうな表情で微笑んだ。この人もやっぱり変わってるなぁ……。そういえば、光秀様はオレと利三のことをどう思っているんだろう?

「そういう左馬之助はどうなんだよ」
「え? オレかぁ……。利三が、心配かな? 光秀様と離れ離れになって、正気を保てているのかなって」
「ははは、確かに、アイツの光秀崇拝ぶりはヤバいよな!」
「そういえば、この中で同じ陣営のお仲間が同じチームにいるのは、左馬之助様だけですね」

 うん、そう言えばその通りなんだよね。……ま、利休が何のつもりでそうしたかは知らないけど。

「私も、ぜひ君の気持ちを聞いてみたい。光秀と一緒のバンドになって、なにを思う?」
「――別になんとも思ってないけど?」

「いやいや。本音を言えよ。光秀は気難しいトコあるから、こういう時くらい離れたかったとか、そういうのねェの?」

 ……一旦、酒を飲んで落ち着こう。オレは目の前にあったグラスの中身を、クッと一気に飲み干した。

「あは、そんなこと思うわけないでしょ? 光秀様は音楽の才能もお持ちだから、一緒のバンドだと安泰だし? それに、あの方に何かあったときにそばにいられた方がいいから、このチーム分けはラッキーだったよね」

 なんとか誤魔化せたかな? ここは、これ以上深く訊かれないうちに――。

「じゃあ、光秀様に食事とお酒をお持ちしてくるよ~」
「おう、こぼすなよ!」

オレは丁寧に食事の用意を纏めると、それを抱えて隣の間へ向かう。

「――ふふ。うまく逃げたようだね左馬之助」
「アン? なんか言ったか幸村」
「いや。さぁ、もう少し飲もうか」

   ◇

「光秀様、お酒をお持ちしました。入りますよ~」

 声をかけてから光秀様の自室に入ると、彼はのそりとベッドから起き上がりこちらに目を向けた。

「こんなときくらい、僕から解放されて息抜きでもすればいいのに」

そう言った光秀様の瞳は、多分気のせいだけど、少し笑っているようにも感じた。

「ほら、今、光秀様をお世話できるのはオレだけですから。なにかあったら利三に怒られますし」
「……こんなところに閉じ込められてて、何があるっていうの」
「あはは、そうですよね。……まあ、せっかく数年ぶりに利三もいないことですし、たまにはふたりもいいじゃないですか」

 隠していたはずの本音が溶け込んだ自分の言葉に少し驚く。きっとこれは酒が入っているせいだ。光秀様はなんとおっしゃるのだろう……。表情を伺うため、再び彼に目を向けると──

「物好きだよね、君も……。まぁ……、好きにしたら」

 そう言いながら、光秀様はおちょこを差し出した。

「……ふふ、何を今さら」

 オレはふたりきりのこの時間を楽しむように、ゆっくりと酒を注いで応える。

「――【蛇-ウロボロス-】は、物好きの集まりじゃないですか」

【完】

出典:B'sLOG 2023年8月号