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マガツノート

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NOVEL

SHORT STORY

<戦シーズン弐nd 荒魂大祭> #2 化楽²

Character
官兵衛 利三 家康 蘭丸 才蔵

 ──【じゃんけん】。
 遥か昔から伝わる、最もシンプルかつ公平に勝敗をつけるゲーム。だからこそ、一瞬の判断が命取りになる。そう、文字通り“命取り”に……。

武将たちが【荒魂大祭(あらみたまフェス)】に向けたバンド練習のため、閉鎖施設に監禁されてから一週間。俺たちのチーム【化楽²】は練習の方は順調に進んでいたけど……

「あ……家康様、見つけました♪ 本日の分のスキンシップがまだでしたので、捜していたのですよ?」
「だから、しないって言ってるでしょ!」
「そんなことおっしゃらずに。さぁ、こちらへ……」
「や、来るな! 利三に蘭丸! 少しはコイツの相手してよ!?」

 我関せずといった様子で、ゲームで遊ぶ蘭丸と、真剣に楽譜を読んでいる利三を睨みつける。
「それはあの時、じゃんけんで負けた自分のせいじゃない? それを僕たちに言われてもねー」
「蘭丸の言う通りです。そろそろ諦めて、係を全うしたらどうですか?」
「お前たちは勝ったからそう言えるんだろ!」

 悔しくも、じゃんけんに負け【才蔵係】を押し付けられた俺は、ここに来てからというもの、彼の電撃から逃げる生活を強いられていた。ああ、もう……こんなストレスがかかる生活じゃ、健康にも美容にも悪いよ。せめて、高級スキンケア用品くらいは【ORIBE】に請求しないと割に合わない。

「なんだ、まだそんなこと言ってんのか?」
必死に才蔵をかわしていると、手のひらサイズの四角い機械を持った官兵衛が部屋に入ってきた。
「おや、官兵衛くん。それなんだい?」
「カメラだ。そこでスタッフに渡されてな。こいつでオレ達それぞれの写真を撮って欲しいらしい。何でも、荒魂大祭の物販で売るんだそうだ」
「物販で写真を!? それは、もしかして他のチームもやっているのでしょうか? ということは、光秀様の写真が売り出されるということ……、買い占めなければ……!!」

「はぁ……、面倒だけどどうせ拒否権なんてないだろうし、とっとと済ませちゃおうよ。それに、その間は才蔵係も休めそうだし……。それで官兵衛、何枚くらい撮らなきゃいけないの?」
「それが……1人100枚らしい」
「「100枚!?」」

 想像以上の数字に、全員がやる気を失う。しかし、次の瞬間にはみんな拳を握っていた。

「負けたやつが撮影係だ……じゃーんけんっ──」

「才蔵係の次は、撮影係まで……」
「まあまあ、皆さんのお姿を残すのはきっと素晴らしいお仕事ですよ?」
「って、なんで才蔵までついてきてるのさ?」
「官兵衛様が家康様についていくとイイコトがある……とおっしゃっていたので」
「あいつ、厄介払いしたな……」

最初に撮影する予定の蘭丸の部屋に行くと、なにやら小物を大量に机の上にならべていた。
「あ、きたきた。見てこれ。プロの美少年である僕が、より可愛く映るように、引き立て役になってもらおうと思ってね」
「……どうでもいいから早く撮るよ。才蔵は出てきたやつ、受け取って」
「はい♪ もちろんです。……そのとき、触れ合ってもいいですよね?」
「ダメに決まってるだろ!!」

こんな調子でなんとか蘭丸の撮影を終えたあと、他のやつらの撮影も一通り終わらせた。官兵衛は一番『映え』ててムカつくし、利三は光秀の写真のことで頭がいっぱいで苦労したけど、一番面倒だったのはやっぱり才蔵だ。ローアングルで自撮りし続けるから、世に出せない写真ばかり……。まあ、俺には関係ないけど。

「あとは、俺のだけだな……。さっさと終わらせよっと」
「フフフ、私が撮って差し上げましょうか?……家康様ご自身でも知らない、セクシャルな一面を──」
「いい! 変なところ撮られそうだし、自分で撮るから!」

部屋に戻るのも面倒なので、俺は才蔵を撮った共用スペースでそのまま撮り続けることにした。

「自撮りって結構難しいね……。綺麗に映ってるかな?」
「ええ、家康様……とてもイイ表情です」
「ほ、褒めなくていいから!」

 才蔵からの言葉に鳥肌をたてながら写真を撮り続けると、あっという間に残り1枚になっていた。

「よし、ラスト100枚目──」

最後にベストショットを撮ろうと、角度をキメてシャッターを押すが反応がない。
「あれ? なんでだろ?」
「どうされました?」

 他のボタンを押しても反応がないってことは、どうやら電池が切れたみたいだ。困り果てていると、他の連中が様子を見にやってきた。

「ちょうどよかった。官兵衛、スタッフに替えの電池渡されてない? あと1枚だってのに電池が切れちゃってさ」
「いや、もらっていないな。手配はしてもらえるだろうが、時間がかかりそうだ」
「そう ……。どこかに電池あるといいんだけど」

そうしていると、 才蔵が不気味な笑顔で近づいてくる。
「あるじゃないですか、電池ならココに……」
「はぁ? そんなのどこに?」
「私が家康様越しに電気を送れば、そちらの機械にも届くと思いますよ。写真も撮れて、私も気持ちよくなれて……、一石二鳥♪」
「俺は損のが大きくない!?!?」
「ほら、はやくシましょう……ね?」
「ちょ、ちょっと待って! 助けてぇー! ……あばばばばばばば!?」

──パシャっ。
才蔵に感電させられている最中、シャッター音が微かに聞こえた。
「……はぁはぁ……、成功しました♪  フフフ、家康様ステキでしたよ」
「はぁはぁ……最悪」

疲弊しきっている俺を眺めながら、他のメンバーたちが呟いた。

「僕、じゃんけん強くてよかった~」
「「同感……」」

【完】

出典:B'sLOG 2023年7月号