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マガツノート

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NOVEL

SHORT STORY

<戦シーズン弐nd 荒魂大祭> #1 益荒鬼-MASRAO-

Character
政宗 秀吉 清正 忠勝 佐助

 幸か不幸か、ボスと一緒のチーム。表に出てなんかやるとか、そういうのはカンベーに任せておきたかったんだけどな。

 ――アーティスト集団【ORIBE】の代表にして、“天才文化クリエイター”、利休。ヤロウの強引なやり口によって拉致監禁されたオレ達、解放区の武将は、対バンライブ【荒魂大祭(あらみたまフェス)】に参加させられることになった。しかも、相性サイアクな面子にチーム分けされて……!

「なぁボス。どーするよ? これ」
「あ? んなもん決まってんだろ、キヨ。やるからには……、トップを目指す! このオレの美声で観客共を沸せてやるぜ!」

 ですよねー。まぁ知ってたけど。……それにそもそも、フェスが終わるまでこのスタジオから出しても貰えねぇって話だし、しょうがねぇか。はぁ、めんどくせ……。

   ◇

 監禁初日の夕食どき。【ORIBE】の用意したメシは流石の一級品で、それまで文句ばかり言ってたチームの連中も、今だけは機嫌よく食っていた。

「ハハッ、酒が足りねぇぞ! ジャンジャンもってこい! ――オラ、政宗! テメェも遠慮すんなって!」
「や、止めろ! だから、俺は酒は……」
「……む? 佐助、肉ばかり食べていてはいかんぞ。もっとバランスよく食べなければ、良い筋肉はつかん。強くなりたいのだろう?」
「えー、ホントに? ユキそんなこと言ってなかったけど」
「俺のこの筋肉がその証拠だ! そういうわけでほら、ピーマンも食べろ」

 お前は保父か?

 ……ツッコミが追いつかない程、一見すると旧友同士が集まった、気の置けない食事会のように見えるけど……どうせあいつら、腹の探り合いしてんだろうな。知らんけど。

「忠勝ももっと飲みなよ! もし暴れたくなったらいつでもオレが付き合うしー? アハハッ!」
「いやいや、この程度では酔わんぞ、佐助! ところでお前の居る六道閹はどうだ、いいところか? 構成員は何人くらいで――」
「ハッハ! そういうテメェこそ、最近調子はどうだ? 【ホリーホック】、儲かってんだろ? あん?」

 ……やれやれ。せっかくの美味いメシなんだから、気楽に飲み食いすりゃいいのに。
 オレは腹黒どもを適当にいなしながら、ひとり一杯ずつ供された、立派なカニに手を付けた。地味にいつだってマイフォーク持ちのオレに死角はねえ。――そのときだ。

 テーブルの端っこで、騒がしい輪に入らず一人でいる政宗が見えた。……目の前のカニを、親の仇でも見るような目で睨みつけている。何やってんだあいつ?
 ……他の連中と比べて、陣営を持っている訳でもない政宗は、別段誰の脅威でもない。だからというか、誰も腹を探りに行っていないようだが……ま、どうでもいいや。オレのカニを食おう。
 ハサミで甲羅を切り、フォークを駆使して身を取り出して、ひたすら食う。うめぇ。これはめったに食えるモンじゃない。うめえ。

「……あ?」
 不意に、殺気を感じて顔を上げると……政宗がこっちを見つめて睨んでいた。今まで見た事がないくらい、すげぇ形相でガンを飛ばしてきてる……なんだってんだ?
 薄くイラついたオレは、カニをほじる手をぴたりと止めて睨み返すが……政宗は一層目を見開いて、オレの手元と目を交互に睨め上げてくる。

 ――いや、こわっ。
 面倒なので、ヤツは放っといてカニを食う作業に戻った。周囲では相変わらず和やかな腹黒の宴が続いていたが……。

「なーなー、この赤くて固いヤツ、どうやって食べんの?」

 佐助が忠勝に尋ねると、オレを凝視していた政宗の首は、ぐるんっとそちらを向いた。

「あーもう面倒くさ! これでいいっしょ!」
 佐助は拳でカニの甲羅を叩き割り、足をへし折り、身を指でえぐり出して食べ始める。

「おま……!? きったねぇな子ザル! 酒に甲羅のカスが入っちまったろうが!」
「それに血も出てるではないか……! スタッフ、消毒液を――」
「平気平気。これくらい舐めときゃ治るし。……って、え!? これウッマ!? おかわりもっとある!?」

 ……。
 オレは横目で、そっと政宗の顔を覗きみた。すると――。
 キラキラと音がしそうなほど、目を輝かせて佐助の様子を見つめていた。……ああ。そういうことか。

 政宗は、目の前の自分のカニを見つめ直す。その手は、勝機を掴んだ握り拳だった。――やがてふい、と顔を上げると、またオレと目が合った。

「ふふん」
 とりあえずニヤリと笑ってやる。すると政宗は頬に朱を上らせ、ガタンと椅子を鳴らして席を立った。

「どうした? 急に立ちあがって」
「これ以上騒がしい連中に付き合ってられん。俺は部屋で食べる」

 そう言って立ち去ろうとした政宗の手には、カニがしっかりと握られていた。

「おい、政宗」
「何だ?」
「オレのフォーク、貸してやろうか?」
「…………不要だ」
「あっそ」

 苛立ち混じりにこちらを振り返っている政宗に、おしぼりを投げてやる。

「しっかり手は拭けよ、痒くなるから」
「? あ、ああ……、すまない」

 おしぼりを受け取ると政宗は逃げるように部屋を出ていった。やれやれ、食い方知らねえなら聞きゃいいのに、お坊ちゃんは面倒くせえなぁ。
 小十郎もいないし、黙ってても誰も世話焼いちゃくれねぇし。まずは人の手を借りる、利用するトコからだな、政宗よ?
 ……ま、オレは親じゃないんで、そこまで教えてやる義理もないか。カニ食お。再びフォークに手を付けたところに、ボスの呑気な声が飛んで来た。

「おーいキヨ、カニ剥いてくんね?」
「あそこの子ザルよりは利口なんだから、自分でやってくだせぇよ」
「ケチくせぇこと言うなって! お前道具持ってんだからいいだろ? ……おい、キヨ! 聞いてんのか?」
 酔っぱらない無視して、オレはカニをほじった。あーうめえ。

 遠くで、『痛っ……!』とお坊ちゃんの呻きが聞こえた気がするが、多分気のせいだろう。

【完】

出典:B'sLOG 2023年6月号