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マガツノート

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NOVEL

SHORT STORY

<荒魂決起會> 武将達のライブ修行

Character
政宗 官兵衛 家康 才蔵

 【荒魂大祭(あらみたまフェス)】で魂響ライブを披露し、終わりを迎えたかのように見えた武将たちのバンド活動。しかし、その結果に満足しなかった利休はまさかのリベンジライブの開催を決定。武将たちはそれへ向けた修行として……、なんと全国巡業ライブツアーを命じられたのだった。

 これは、ツアー初日を終えた官兵衛と、同じく出演者である政宗、家康、才蔵たち4人の、打ち上げでのちょっとした一幕――。

    ◇

「皆さん、今日のライブお疲れ様でした。ここのお代は【ORIBE】持ちですので、遠慮せず召し上がってください。それでは、私はこちらで失礼いたします」

 スタッフが消えるとオレたちはそれぞれ飲み食いを始めた。

「フン、何が【ORIBE】持ちだ。そんなことは当然だろうが……」

 こんなことなら、無理にでもボスとキヨを連れて来て、利休のヤツに少しでも損害を与えてやれば良かった。まったく、なぜこんな時に限って2人揃って緊急の用事が入ってしまったのか……。そんなことを思いつつ、オレはジョッキに手を伸ばす。

「はぁ、ただでさえ【ホリーホック】の仕事が忙しい時期なのに、何で俺たちがライブ修行なんかしなきゃいけないわけ? よりにもよって……、才蔵や政宗なんかと……」
「ンフフ、私は楽しかったですよ? 家康様、官兵衛様。皆さんとの”触れ愛”も存分に味わえましたし……、ああん、思い出しただけで……♡」
「まぁ、そう言うな家康。オレ達のチーム喜【化楽²】メインの【歓喜ノ夜】は終わったんだ。オレも利休の無茶ぶりには腹は立つが、今更キレててもしょうがない。飲んで忘れるのが賢い選択だろう」

 そう言って、オレは喚く家康の前へ追加の酒を置く。……すると、隣で黙っていた政宗が険しい顔で口を開いた。

「利休のヤツめ……、なぜ俺だけ4公演全てに参加しなければならないんだ……。チーム楽【益荒鬼-MASRAO-】担当回だけで良かったろうに……」

「ハハッ、一番へたっぴだったから場数踏めってことでしょ。利休にお礼言っときなよ? 今日だって、客を煽ることすらまともにできなかったんだからさ。ねぇ? 政宗クン」

「あ、煽りは……、初めてのことなのだから、しょうがないだろう。……それに、そういう家康、お前や官兵衛だってまだ完璧ではないだろう? その証拠に、パフォーマンス中、時折恥じらいのようなものが見え隠れしていたぞ」

「はぁ!? 別に恥じらってなんかないんだけど? 勝手なこと言わないでくれる?」
「ならば今ここで証拠を見せてみろ。あの……、そうだ、顔の前でハートを作るあの動きとか」
「冗談じゃない! 君に向かってあんなことするくらいなら、今からカテドラルに行って信長に向かって披露して来る方がマシだね!!」

 前から思っていたが、家康のヤツ、政宗が相手となると妙に突っかかるな。2人とも元ARK所属だし、何か因縁でもあるのか?
 ……いやまぁ、それは後で調べるとして、このままこいつらをケンカさせていたら、本当にあのこっぱずかしいパフォーマンスをここで披露させられかねん。しかたない、話題を逸らすか。

「そういえば、政宗。お前はうちのボスやキヨと同じチームで、2週間一緒に監禁されていたろう。……さぞ大変だったろうな、あいつらの世話は」
「っ! ……ああ、そうとも。大変なんてもんじゃなかったぞ。清正はともかく……、何なんだ秀吉のヤツは! 自分勝手で、横暴で……。その上、他人に無理やり酒を飲ませて……! ん? そうだ、俺は酒で酔うことで恥じらいを捨て、歌に感情を乗せられるようになった。……お前たちも酔っている今なら、恥じらうことなくパフォーマンスが出来るんじゃないか?」

 なぜその流れでその話へ戻る!? クソッ、振る話題を間違えたか……。

「お酒の力で上手くいくって言うんなら、政宗も飲んで煽りやってみなよ? 人のことを言う前に、自分が手本になるべきじゃない? 人を従える立場としてさ」
「断る。俺はもう酒は飲まん」

「あら? そうなんですか? すみません……」

 すると、ずっと話を聞いていただけだった才蔵が小さく手を挙げて言う。

「政宗様も飲んでらっしゃるのかと思って、先ほどから政宗様のグラスにもお酒を注いでいました……♪」

……。

…………。

「……うっ。なんだか、急に気持ち悪くなってきた……。こ、この勝負はお預けだ……。ツアーが終わるまでに煽りを完璧にしてやるから……、どちらがより客を満足させられるようになるか、勝負だ……! いいな、家康……!」

 政宗はそう吐き捨てて、部屋から出て行った。

「ボスやキヨから聞いてはいたが、政宗のヤツ、本当に酒には弱いんだな……」
「はぁ、どうりでいつもよりうっとうしいわけだよ。まさか酔ってたなんて。……でも、売られたケンカは買わないとね? 政宗のヤツにあんなこと言われて何もしないなんて、プライドが許さないよ」
「まぁ、そうだな……。リベンジライブとやらがどういったものになるか知らんが、こんな修行までさせられているんだ。もし参加するとなれば、負けるわけにはいかん」
「フフフ♡ ええ、私たち【化楽²】もがんばりましょう! ……あ、どうでしょう? この後は3人で朝までたっぷり、じっくり……、ダンスの練習など?」

「断る」
「絶対嫌」

出典:Bs’LOG 2023年9月号