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マガツノート

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NOVEL

SHORT STORY

<戦シーズン弐nd 荒魂大祭> 【ORIBE】と利休の秘密

Character
幸村 利休

 ――【ORIBE】。
それは解放区では言わずと知れたアーティスト集団。その活動は多岐にわたり、衣服や武器の製造、ネットワーク環境の管理など様々な面で、解放区民の生活を支えているのだが……。その実態は未だ謎に包まれていた。

 その集団の代表を務めるのが、天才文化クリエイター利休である。

    ◇

「幸村よ。どうじゃ、儂の作った【ORIBE】の工房列車は。ぬしとは長い付き合いになるが、ここへ案内したことはなかったのう」

「……噂には聞いていたが、古い地下鉄車両を改装したようだね」

「そうじゃ。ARKに発見されぬよう、定期的に移動できるのも地下鉄ならではのことよ。この場所にもつい先日来たばかりでの、ラッキーじゃったわ」

 幸村をこの工房列車に招待したのは、儂が個人的に修復依頼していた美術品の引き渡しのため。こやつが近くにいると聞き、ついでに列車を見せてやろうと思った次第じゃ。

「まずはここ、衣装部門の仕事場。デザインから仕立てまで、それぞれ職人がおって、主にカテドラル製の衣服の改造もやっておる。あとは、武将達から依頼があったときには、そやつに適した衣装やコーディネートを作るんじゃ」

「ああ、彼ら職人には我々【六道閹】もお世話になっているよ。佐助や才蔵の要望を聞いてくれて感謝している。少々こだわりが強い子たちでね」

「ハッハッ、礼には及ばぬ。何せ、この儂はもっと大変な無理難題を押し付けておるからのう! ぬしらの要望なぞ可愛いものよ。……っと、それで次の車両は武器部門じゃのう。刀剣から銃器まで、武器であればなんでも製造しておるぞ。……そういえば、ぬしに作ってやった銃の調子はどうじゃ?」

「特注品は殺傷能力が高くて、使いやすくて良い。弾薬も後ほど追加注文させてもらうよ」

「毎度ありじゃ」

    ◇

 それから、儂は建築部門やネットワーク部門を始めとする、色々な部門の説明をしてやった。

「――と、これで全部じゃ。ふぅ、結構歩いて疲れたのう……。よし、今日は気分が良いゆえ、特別サービスじゃ。この利休の茶を飲ませてやろう。儂と貴様の仲じゃしな」
「ほう、君自ら? それは光栄だな。では、お言葉に甘えるとしよう」

 幸村を自室に招き入れると、儂は茶を点てる用意を始めた。抹茶は古くから日本に伝わる【文化】のひとつ。幸村をもてなすに、これほどうってつけのものはない。

「ほれ、出来たぞ。しかと味わうがよい」
「抹茶か……。本格的なものは、随分久しぶりな気がする。……いただくよ」
「どうじゃ、味の方は」
「ああ、美味しいよ。とても……懐かしい味だ」
「であろう! この味を再現するのには少々手こずったのじゃが、ぬしが認めたとなれば間違いあるまい。フフ……、さすが儂、恐ろしい才能よ!」

「――ところで、利休。あなたは一体何を企んでいるんだ?」
「は? 何のことじゃ、藪から棒に」

「【荒魂大祭】で爆発したあのスピーカー……、ただのスピーカーではないだろう? もしかすると、あのフェスの本当の狙いは、あのスピーカーにこそあったんじゃないか……と、そんな気がしてね」

 完璧バレとる……! 【荒魂大祭】の真の目的が、【荒魂スピーカー】のテストであったことに気づいておったか……、さすがは幸村。
 しかし、ちと困った。今それ以上のことを知られるのはマズイ。儂の悲願達成のためにも、ここは誤魔化さねば。

「ハハハ、考え過ぎじゃ。たしかに、あれは魂響の増幅機能を持った新開発のスピーカーじゃが、【魂響ライブ】という儂の天才的アイディアを実現させるための道具に過ぎぬ。……それとも何か。ぬしはあの技術を使って、儂が世界征服にでも乗り出すとでも?」
「まさか。あなたは権力欲や支配欲とは無縁な人だ。何か企むとすれば……、もっと個人的なことのはず。そう、あなた自身のためのはずだ」

 うっ、いかん。迂闊に話すとヒントを与えてしまいかねん。

「利休。あのスピーカーで……、いや、武将の【魂響】を使って、あなたは何をしようと言うんだ? そろそろ全てを教えてもらえないだろうか?」

 これ以上は危険と判断し、儂は幸村にバレぬよう、密かに机の裏の非常用ボタンを押す。すると、すぐにけたたましいサイレンの音が列車内に響き渡った。

「おっと、列車の移動時間のようじゃ。せっかくの楽しいお喋りじゃったが、仕方ないのう。……ぬしも、もう帰るがよい」

「……教えてはもらえないか。相変わらず食えない人だ」

「ぬしに言われとうないわ、幸村」
「フフ、たしかに」

   ◇

 相変わらずの勘の良さよ、幸村。しかし、儂の悲願……、”真の目的”は、まだ誰にも知られるわけにはいかん。【荒魂システム】を完成させるためにも、武将連中にはまだまだ儂の思い付きに付き合って貰わねばならんのじゃから。

 そう、全ては――、

「儂の中の、あの”忌々しい感情”を消し去るために……、のう」

出典:Bs’LOG 2023年10月号