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マガツノート

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NOVEL

SHORT STORY

<Season:1-after> World is Mine

Character
織田信長 蘭丸

 ――【支配者】。
 そういう人間を、僕は何人か見てきた。彼らに共通して言えるのは、だいたい『ロクでもないヤツら』ってことだと思う。
 わざわざ他人の上に立とうなんて物好き達なんだから、当たり前だけどね。
 ああ、僕? 僕は違うよ。僕なんか、彼らに比べれば普通の人間さ。……ま、少しばかり多めに、『敵』を殺しはしたけど。

   ◇

 200年前の隕石の衝突で、地上の多くは地獄と化した。解放区やカテドラルは人の手で再度整備されたけど、それでもまだ人が住むには厳しい場所も残っている。

『グルゥアアアアア――!!』

 ……ただ、人以外なら話は別だ。

「はっ――!!」

 その一声と共に、信長の太刀が振り下ろされる。相手はARKの部隊が解放区で捕獲してきた『ミュータント』――苛酷な自然に適応すべく、異常進化した動物だ。
 こいつは多分、トカゲか何かが元だと思うのだけど……、ここでは『竜』を思い浮かべておいてくれればいい。全長も20m近い上、翼もあるからね。

 ともかく、信長の一撃は竜の頭に直撃。嫌な音が訓練場に響いて、その竜は動かなくなった。

「……酷いね。見てられないよ、信長」
「ほう、今の一撃がか? 蘭丸」
「そうとも。まったく、ただの力任せじゃないか。ひょっとして、剣の振り方は忘れたままなのかい?」
「下らんな。技というのは『弱者が強者と戦うための術』であろう。強者が弱者を倒すのに、そんなものは不要よ」
「そういうことね。相変わらず徹底していらっしゃる……」

 そうして、ちょっとした運動を終えた信長は、竜の身体へ腰を下ろすと今度は端末を起動させ、何かに目を通し始める。

「何を見てるんだい?」
「ARKについての文献よ。ここ連中がいかに人間を管理して来たのか……、それをまとめさせた物だ」
「ああ、何だっけあの……、何とかレベルとかについて?」
「EVレベルだ。優れた者を厚遇し、そうでないものを冷遇する……、この手のことは支配者ならば誰しもが考えることだが、実際にはやらん」
「へぇ、どうして? みんなが思いつくってことは、いいアイディアなんでしょ?」
「効率が悪過ぎるからよ」
「……なるほど。何百万って領民みんなに点数をつけて、管理しないといけないんだもんね。たしかに、僕には無理だなぁ」
「であろう? だというのに、だ。ARKはそれをここまでの規模でやっておる。まったく、最初にこれをやろうと思った者はよほどの大ウツケであろうよ。……フフッ、嫌いではないがな。我が治世でも、この制度はありがたく引き継がせてもらうとしよう」
「……あーあ、みんな可哀そうに」
「だが、問題もある。この制度が長く続いた結果、上は上、下は下で硬直化してしまっておる。今後は……、もっと”刺激的”にしてやる必要があるだろう。フフフ……」

 と、ここで信長は何かを思いついたのか、僕の顔を見てきた。

「貴様の所感も聞いてみたいものだな? 蘭丸」
「EVレベルについてかい? そうだねぇ……、正直面倒くさいとしか思わないかな、僕は。【力のないヤツは死ぬ】……、それだけで十分なんじゃない?」
「……そうきたか。やれやれ、物騒な蘭丸もいたものだ。あの愛らしさが恋しいわ」
「何だい何だい、酷いな。人をまるで野蛮人みたいに言って」
「何をほざく。事実であろうが」
「……でも、今の君が復讐と戦以外のことにも興味があったなんて意外だったな」
「たわけが。貴様等のような武人と一緒にするな。我は征服者であり、支配者。戦いだけが専門ではない」
「それは失礼。……あ、そういえば聞いてなかったんだけど。君さ、復讐を果たした後はどうするつもりなんだい?」
「何を今さら……、征服よ。この地上全てを我が物とする。土地だけでなく、人も、物も、残らずな。復讐などその前座に過ぎぬ。ただ、その後は……そうさな、”前回”の時に知ったが、この空の果てには地上など話にならぬほどに広大な世界が広がっているのだろう? ならば、そこも征服し尽くさねばな」
「呆れた……。『この空は、我だけのもの』って、そういう意味だったのかい?」
「無論よ。そして、その時は我が貴様を将として使ってやるぞ。……フフ、その様を思い浮かべると、さすがの我も心が躍るな? 天下の大将軍よ」
「僕を、君が? あはは、どうだろうねぇ。このか弱い蘭丸君に、そんな大役が勤まりますやら……」

 そこでお喋りに満足したのか、信長が端末を持ったまま立ち上がる。

「フム、話しておったら興が乗った。久しぶりに政務でもやるか」
「運動に勉強に、次は仕事かい? いやはや、働き者な狂人もいたものだ」
「支配者とはそういうものよ。――貴様も覚えがあろう?」

 そんな捨てセリフの残して、信長は訓練場を出て行った。

「……はは、違いないや」

(本当、大した男だよ、織田信長。底なしの征服欲――、たしかに『魔王』と呼ばれるに相応しい男だ)

『グルル……』
「……ん?」

 唸り声に振り返ると、信長が倒したはずのミュータントが起き上がりつつあった。

「生きてたんだ? 頑丈だねぇ」
『グルゥアアアアアアア――!!』
「ああ、どうか安心して? 僕は信長と違って上手だから……、痛みもないよ」

 そう言って、僕は錫杖に手をかけ、

 ――それで、終わりだ。

『ヒュ……』

 竜の断末魔は、声にならない。空気が抜けるような音だけが口から漏れ、そして……、数秒遅れてその首が落ちる。

(ふふ、『魔王』ね……、いいじゃない。そうでなくっちゃ。その果てしない欲望が呼ぶ”結末”を見るために――)

「そのために、僕はここにいるんだから」

出典:B'sLOG 2023年1月号