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マガツノート

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NOVEL

SHORT STORY

<Episode 1-before> Gold Rush

Character
秀吉 官兵衛 清正

 ――【武将】。
 それはARKに反旗を翻した英雄。解放区を生み出した先導者達である。
 ……とか何とかエラい持ち上げられようだが、何のこたぁねぇ。要するに【武将】ってのは”欲しいモンを手に入れるために、他人をブン殴ることにしたロクデナシ”どもだ。
 なぜなら、オレ自身もそうだからだよ。

   ◇

 この日、このオレ様――秀吉が率いる【マッドファング】の直営カジノ第一号店がオープン当日を迎えていた。
 たとえ解放区だろうと金持ちはいるし、博打は最高の娯楽だ。おかげで店は大賑わい。……んで、そんなことになりゃ、当然オレも気前が良くなっちまうわけで。

「はぁ? チップを分けてくれって……ボス、もう全額負けたんですか!?」
「いやぁ、ワリィなカンベー。女どもがもっともっとってはやし立てるもんで」
「この店からの上がり分より負けてどうするんです。赤字じゃないですか」
「いいだろ別に。金ならまだまだあるんだ。それに、こういう時にパーッと使わねぇでどうする。俺らがあくせく金稼いでんのは、貯めるためか? 違うだろ?」
「はいはい……。ですが、チップの追加は却下です。酒でも飲んでてください」
「ちぇ、しょうがねぇな。……おぅ、ウェイター、酒を。とびきり強いヤツ頼む」

 ケチな官兵衛の言葉でオレは追加の軍資金を諦め、代わりに彼らの遊びっぷりを肴に、一杯やることにした。

「カンベー、何か飲むか? ここは酒もこだわったからな。どれもイケるぜ?」
「オレは水で十分です。今、心地よく頭使ってるところなので」
「心地よくだぁ? 今やってるそいつは……、バカラか。そこそこ勝ってるみてぇだけど、やっぱ何か必勝法とかあんの?」
「そんなものあったら商売にならないでしょう。出されたカードを暗記する初歩的なカウンティングしかしてませんし、それで十分勝てます」
「暗記! うわーお、地っ味~……。そんなんで勝って楽しいのか?」
「このクソ猿……いっそ営業妨害で叩き出してやろうか……」

 ひとしきり官兵衛を冷やかすと、次にオレは後ろでスロットに興じていた清正へターゲットを変更する。

「キヨ、お前はカンベーと違って飲むよな? ほら、オレのオススメのヤツだ」
「……あ? 何だ、アニキか。どうも」
「で、お前はスロットか? 調子はどうよ。儲かってるか?」
「あー、たぶん、ちょい負けくらい?」
「オイオイ……。お前が安定志向なのは知ってるが、賭場でくらい熱くなれ?」
「いや、無理やり連れてきといて熱くなれとか……、無理だろ。オレはまったり遊んでるんで、どうぞお構いなく」
「はー、若いくせに枯れてんな」
「……クソうぜぇ……」

 ギャンブルっていうのは、どうやったって性格が出る。オレは腹心の部下2人のプレイを見て、正直ガッカリだった。

「何だ何だ、どっちもせせこましい勝負しやがって。それでも天下の【マッドファング】幹部か!」
「そう言うボスは何やってたんです?」
「オレはルーレット。それも1点賭けでな! いやぁ、お前らにも見せたかったぜ、あの見事な連続的中! 野次馬も女連中も超大盛り上がりでよ!」
「でも、負けたんだよな? アニキ」
「そうそう。最後の一勝負、ここだ!って思って全額突っ張ったんだが……、見事にやられちまった。ハハッ、我ながら気持ちのいい負けっぷりを披露しちまったぜ」

「なぁ、カンベー。ひょっとしてアニキ、ディーラーに遊ばれたんじゃ……」
「ああ、客寄せに使われたんだろう」

「オイ、聞いてんのか!? お前らもそんなオレを見習ってだな……」
「前向きに検討しておきます」
「ま、やれたらやるわ」
「カァー! 相変わらずだな、お前らは。昔からちっとも変わって――」

 と、言いかけたところで、オレはふとあることを思い出し、店の中を見回した。

「……いや、そうでもねぇか。あの穴倉から出て早数年。こんな店を持てるくらいにはオレらもビッグになったわけだしな」

 穴倉――というのは、オレ達3人が生まれた場所で、大衝突以前に作られた地下の配管施設のことだ。まぁ、有り体に言うと、巨大な下水管だな。
 何でも、ご先祖様達はARKから逃れるためにそんな場所を住処に選んだらしいが……、環境は最悪。クソ以下のクソだった。考えられるか? あそこじゃ人間様よりネズミ様の方が立場が上なんだぜ。ネズミつっても、クマ並みにデカいからな。

「あの頃――、生まれて初めて見た太陽に感動して、あそこを脱出して、お館様に拾われて……、いろいろあったよな」
「もう10年ちょっとになりますか。まぁ、たしかにいろいろありましたね」
「そうそう。主に、どっかのアニキがいつもバカをやらかすせいで」
「とか言いながら、2人ともずっと付いてきてんだろ。……感謝してるぜ、カンベー、キヨ。ここまでこれたのはお前らのおかげだ」

「うへ、何だよ急に。鳥肌立ったぜ」
「酒のせいか。面倒だ、話を変えるぞ」

「――それで、ボス。こうしてまた1つ【マッドファング】は手を広げたわけですけど、これからどうするんです?」
「もちろん、トップを目指す! 集めた金で人と武器を揃えられるだけ揃えるんだ。ARKとの直接対決に向けてな」
「あーあ、最近戦も無くて楽できてたのに。ARKの相手とか、マジダリぃ……」
「ああ、そういやカンベー。例の件の準備は進んでんのか?」
「ええ、一応。しかし、本当にやるんですか? カテドラルへの侵入だなんて……、いくら武将でも正気の沙汰じゃない。バカのすることですよ」
「いいじゃねぇか、バカで結構よ。それに……、ここで諦めたら無駄になっちまう」

 オレは手にしていた酒を一気に飲み干す。強いアルコールが喉を焼く感覚と、”あの日”の炎の記憶を重ねながら。

「”お館様”を焼いたことが――、よ」

 欲しいものがあれば、手に入れる。相手が誰であろうと気にも止めねぇ。――そうとも、それがオレら【武将】の……ロクデナシの流儀だ。今も、昔も。

「行こうぜ、兄弟。そんで掴むんだ。テッペンを――、あの輝く太陽をな!」

出典:Bs'LOG 2022年6月号