pagetop anchor

マガツノート

OPEN CLOSE

NOVEL

SHORT STORY

<バレンタイン スペシャルSS>ARK医療局&蛇-ウロボロス-

Character
利三 左馬之助 忠勝 直政

 ――2月某日 家康領地倉庫にて。
「忠勝、【例のモノ】はどうなってる?」
「ああ、問題ない。見ての通り数は揃えることができた。あとは加工して家康様に献上するだけよ」
「油断すんじゃねぇ。無駄に勘の鋭いヤツの目を掻い潜って進めてきた計画だ、絶対に成功させるぞ。いいな?」
「うむ、極秘任務だからな……!」

 そこで密会をしていたのは、忠勝と直政だった。2人共声を潜めて何やら真剣に話をしている――が。

「っ……!? なんだ!?」
 その刹那、倉庫の扉が派手に爆ぜた。瓦礫の奥から出てきたのは――。

「やっほー! お邪魔しま~す」
「フフ、情報の通りですね。このようなところでコソコソと……」

「お前達は確か、ウロボロスの――」
「左馬之助と利三……? いきなり襲撃カマすとはいい度胸じゃねぇか。どういうつもりだコラァ!」
「まあまあ、そう焦らず。実はちょっとしたお願いがあって参りました」
「お願い、だと……?」

 武器に手を掛ける直政達に、乱入者達は悠然と歩み寄ってくる。そして倉庫に詰め込まれている箱をしかと見つめると――。
「ええ。少しばかり分けていただきたいんですよ。……このカカオをね」
「は?」

 ***

「しかし驚いたぞ。我らが開発した滋養強壮効果つきのカカオ……まさかこれを狙ってくるとは思わなんだ」
「実は最近、光秀様のティータイム用の菓子がマンネリ化していまして。そんな時、密偵がいい情報を仕入れてきてくれたんですよ」
「ねぇ忠勝。それより次はどうしたらいいの? カカオ豆、全部砕き終わったけど」
「おお、では次はカカオニブをすり潰してペースト状にして……」
「は? カカオニギリ?」

「くそ……しゃーねぇとはいえ、不本意極まりねぇなこの状況」
「平和的に交渉した結果なのですから仕方ないでしょう? 食べる分だけなら譲ると言ったのはあなたですよ」
「アァ!? 寄越さねぇならカカオの情報をMAD FANGに売るとか脅してきたのはお前らだろうが!」
「最初に提示した報酬を突っぱねるからですよ。そうなるとこちらも奥の手を出すしかありませんしね」
「チッ……二度と同じ手は食わねぇからな。覚えとけよ」

「直政、利三。コンチングするから手伝ってくれないか? 2人で練り続けるのは骨が折れる故」
「さすがに疲れたんだけど」
「仕方ねぇな……代わるから寄こしな」
「しかし……ここまで来るとかなりチョコレートっぽいですね。滑らかな質感が素晴らしい」
「って……ちょっと待て。忠勝、何入れてんだ?」
「ナッツにドライフルーツにミルクに……とにかく健康に良さそうなものだ。家康様は健康管理を徹底しているだろう。だからお渡しするものも栄養満点でなければ!」
「いやいや、だからって入れすぎだろ! つーか今入れていいもんなのか!?」
「ふふん、それではチョコがゴテゴテして不格好ではないですか。やはり光秀様の口に入るのですから見た目も美しくなければなりません。左馬之助、こちらはデコレーション重視でいきますよ」
「え? あ、うん」
「しかし……解せぬな。美しさは内面からにじみ出るものだろう? せっかく食べ物を送るのだから健康にいいものを渡した方がいいのではないか? 特に光秀は不健康の塊であるし……」
「は? 忠勝お前、光秀様を愚弄する気ですか?」
「そういうつもりではないが……もう少し家康様を見習った方がいいのではと」
「っ……それが愚弄しているというんですよ! あんなちんちくりん武将に見習う点などありません!」
「なんだと!? 鍛練にストレッチにエステに食事にと、美と健康に関する努力を欠かさない家康様を軽んじるとは……!」
「光秀様はそういう暑苦しいことをしないのがいいのですよ!!!」
「オイ! 食い物作ってる横で騒ぐな!」
「忠勝、コンチングしてる手が止まってるってば!」

 ***

 それから、数時間後――。
「あー、くだらねぇケンカのせいでくっそ疲れた……」
「フフ、この完成度……まるで既製品のようではないですか。これこそ光秀様に相応しい!」
「うむ。我らの心がこもっているからな……家康様なら、きっと……」
「……ああ、光秀様……」
「家康様……!」

「え、何? 2人揃って目閉じて悦入っちゃったんだけど」
「大方、チョコ渡す時のシミュレーションでもしてんだろ。……ったく、これだけ苦労したんだ、喜んでくれなきゃ浮かばれねぇぜ」

 ***

 ――後日。
「利三様、左馬之助様。直政から書状が届きました」
「直政? この間のチョコ作り以来だね」
「一体何でしょう……?」

 部下を下がらせた後、2人はすぐに書状を開いて確認してみる。

「なになに……? 【希少な薬草の栽培に成功したと聞く。その株分けで手を打とう】……だって」
「なっ!? あの薬草については極秘のはず! 何故情報が洩れているのです!?」
「文字通り、カカオのお返しってことかな。あーあ、一本取られちゃったね」
「くっ、この私を出し抜くなど……!」

 ***

「ま、やられた分はきっちりやり返すぜ。なぁ忠勝?」
「うむ、その通り!」

出典:B'sLOG 2023年4月号