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マガツノート

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NOVEL

SHORT STORY

<お正月 スペシャルSS>新春羽子板デスマッチ 政宗VS秀吉

Character
政宗 小十郎 秀吉 官兵衛 清正

 ――1月1日 MAD FANG本拠地
 寒風吹きすさぶ、解放区の新年。……だというにも関わらず、そこは熱気に包まれていた。

『――さぁ! いよいよこの【MAD FANG主催 新春!お正月遊び大会】もクライマックスを迎えました! それでは、ここまで勝ち残った選手2名をご紹介しましょう! まずは、新人武将・政宗! それに対するは、我らがボス・秀吉! 果たして彼らが次の最終種目【羽子板対決】でどんな熱いバトルを見せてくれるのか……! お2人とも準備はよろしいですか!?』

「俺なら問題ない。とっとと始めろ」
「オレもいいぜ。ルーキーに、前年優勝者の力を見せつけてやるよ」
「言っていろ。俺は何がなんでも優勝してあの賞品を――【コタツ】手に入れなければならないんだ」
「ハハッ、あの【ORIBE特製高級コタツ】の良さが分かるとは、目が肥えたみたいじゃねぇか政宗。だが、前年優勝者のオレに勝てるかな?」
「……俺には負けられない理由がある。秀吉、たとえ貴様が相手であろうと負けはしない」

『両者気合は十分だ! それでは最終種目、【羽子板対決】――スタートッ!』

 その合図で、ついに最後の戦いが始まった。俺は秀吉の強烈なサーブを何とかしのぐと、そのままラリーへと持ち込む。

「くっ……。前年優勝者というのはダテではなかったようだな、秀吉」
「まぁな! だが、テメェもオレをサーブを返すとは大したもんだ。だが……このルール無用の【MAD FANG流羽子板】に、どこまでついて来られるかなっ!」

 そう言うと秀吉は羽根を高く打ち上げ、なんとその滞空時間を利用して直接俺へ殴りかかってきた。
 ……が、どうせそんなことだろうと読んでいた俺は、逆にヤツの拳を羽子板で打撃してやった。

「いってぇなオイっ!? テメェそりゃ反則だろ!!」
「ルール無用と言ったのはお前だろうが!」

   ◇

 ――その頃、観客席
「頑張ってください、マスター! マスターなら絶対勝てますよ!」
「はー、2人ともこのクソ寒い中でよくやるねぇ。オレはあんな面倒そうなことゴメンだぜ」
「まったくな。そもそも、正月早々こんな下らん行事の企画と運営をやらされる身にもなれという話だ。本当に、あのクソザルは……!」
「あ、でもよ小十郎。何で政宗のヤツ、あんなマジなんだ?」
「たしかに。生真面目なヤツのことだから、絶対不参加だと思っていたんだが……、そんなに【コタツ】が欲しいのか?」
「ああいえ、それはいろいろワケがありまして。実は――」

   ◇

 ――再び、試合会場
『おおっと、ボス残念! あと一歩届きませんでした! しかしこれで……9対9、なんと両者マッチポイントだぁー!』

「はぁ、はぁ……。素人のクセに粘りやがって……!」
「だから、言っただろう……、理由が……、あると……」

 試合開始から数十分。いくら【遊び】とは言え、さすがの俺も披露がピークに達しつつあった。特に、羽子板を振り回す肩のダメージはもう限界に近い。

「泣いても笑っても次がラストだな……。正直、見直したぜ政宗。見事な戦いぶりだった。そこは素直に賞賛してやる」
「……何だ突然。お前に褒められたところで、まったく嬉しくも何ともない」
「ハハハ! 口はまだまだ元気ってか? ……だが、身体の方はどうだかな? 特に肩とか、そろそろ辛くなってきてんじゃねぇか? なんつっても、クソ重てぇ羽子板振り回してたんだからな」
「? だが、それは貴様も同じことでは――っ!? まさか秀吉、貴様……俺の羽子板に何か細工をしたな!?」
「おっと、何のことか分からねぇな? ま、この羽子板は全部職人の手作りだから、ちーっとばかり出来にムラはあるかもしれねぇけどよ」
「見下げ果てたぞ、秀吉! そうまでして勝ちたいのか!」
「勝負ごとである以上、負けたいと思うヤツはあんまいねぇだろうぜ? アッハハハハ!」
「――そうか。分かった」
「……あ?」

 秀吉のバカに指摘されたように、激しい戦いによって俺の肩はすでに限界が近い。……全力は、出せておそらくあと――1度きり。つまり、次の一打で勝負を決めなければならない。だが幸いにして、最後のサーブ権は俺にある。

「俺は負けられないんだ。あいつらのためにも……」
「”あいつら”? そりゃ誰のことだ?」
「――行くぞ、秀吉。俺は次の一球に全てを込める」

 そして、俺は万感の思いと共に羽根を天高く放り、

「あいつらが、安心して生きていける場所を作るために――! うおおおおおおおおおっ!!!」

 ――渾身の力で、羽子板を振り抜いた。

……。

…………。

『10対9! よって【お正月遊び大会】の勝者は――!!』

   ◇

 ――大会後 政宗と小十郎の家
 騒々しい大会を終え、俺と小十郎は我が家へと戻った。
 そして、早速――優勝賞品である【コタツ】を設置していた。……リビングに? いや、違う。家の軒下に、だ。

「……どうだ、暖かいか? 【コタツ】というらしいぞ、これは。……ふふっ、気に入ってくれたか? なら良かった」
「苦労したかいがありましたね、マスター。これで彼ら――野良猫の家族も、無事に冬を越せるでしょう」
「そうだな。本当はちゃんと飼ってやれるといいんだが……、俺達はARKとの戦いで家を空けることが多いから、そうもいかない。しかし、これなら安心だ」
「そうですね。……では、我々も中へ入りましょう。また雪も降り出すようですから」
「ああ、わかった」

 小十郎にそう言われ、俺は名残惜しく感じつつも、猫達の前から立ち上がる。そうして、最後に、

「……家族で、仲良くな」

 とだけ声をかけ、家へ戻ったのだった。

出典:B'sLOG 2023年3月号